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『グランド・フィナーレ』

(☆ 過度な期待は排し、無心で見るべし。ネタバレあり)

 フェリーニの再来みたいな宣伝文句に誘われてしまった。予告編も温泉の描写などに『81/2』を彷彿とさせるものがあった。実際に本編を観て、改めて思ったのは、やはりフェリーニは偉大にして唯一無二の存在だったんだなぁということ。ニーノ・ロータの音楽も、フェリーニからは切っても切れない存在だということ。
 まず、ストーリーというか設定が何となく『81/2』的だ。『81/2』はフェリーニ自身を投影した映画監督グイドが、新作を作るプレッシャーで底なしのスランプに陥っていくという話しだ。そんな中で温泉地に行くシーンがあったが、そのシーンを拡大して、舞台をそこに限定したのが本作といった印象だ。スランプの映画監督がリタイアを決めた老音楽家(マイケル・ケイン)に変わっているが、音楽家の友人に映画監督(ハーヴェイ・カイテル)がいるし、その映画監督は資金繰りなどでスランプ中なんて設定だから、むしろ『81/2』に寄せている感すらある。それに、温泉地ということもあってミスユニバースのグラマラスなヌードもあったりして、ちょっとエロいエッセンスもフェリーニ的だ。

 さて、ここからはガッツリとネタバレ。
 音楽家のフレッド・バリンジャーはリタイアしてアルプスの高級ホテルで湯治していたが、そこにイギリス王室から女王様のためにコンサートを開いてほしいとの依頼が来る。バリンジャーはこれを固辞しつづけるのだが、映画のラストでその理由がきっちりと語られる。彼は愛する妻が痴ほう症になって歌えなくなったのを機にリタイアを決めたのだ。ところが、友人の映画監督ミックが、長年のコンビを組んできた女優(ジェーン・フォンダ)から決別を言い渡され、映画製作がとん挫したショックで自殺してしまい、それがきっかけで女王様のコンサートを指揮することになる。これが『グランド・フィナーレ』というわけ。

 イタリアの名匠と言えば、フェリーニとビスコンティが双璧と言って差し支えないと思うが、二人の違いは何か。ボクは、庶民派と貴族派と考えている。子どもの頃の思い出も、若いころの暮らしも、国は違えど同じ庶民として共感できるものが多い。ところが、ビスコンティは貴族出身なので、そもそもの原体験が違うのか、驚きはあっても共感部分は少ない。もちろん、『山猫』などの好きな作品もあるとはいえ、ボクはおそらく死ぬまで『ベニスに死す』は理解できないだろうと思う。貴族のおっさんが若い男に恋をし、歳をとって容色の衰えた己の姿に絶望し、悶え苦しんで死んでいく物語……とボクは理解しているが、見終わった時の感想は「勝手に死んでろ」だった。共感する部分はゼロだった。
 振り返って本作である。どちらかと言うと、いやはっきり言って貴族寄りなのである。そもそもの舞台となるホテルがめっちゃ高級なのだ。ホテルでは毎晩何かしらのショーが行われていて、これが予告編で見るとサーカスやピエロ(フェリーニはクラウンと呼ぶ)をモチーフに使ったフェリーニを彷彿とさせながら、本編で観ると単なる貴族的な贅沢なのだ。ひとことで言えば、この映画はビスコンティが撮った『81/2』だ。
 そもそも原題に答えが隠されていた。原題は『Youth』という。『young』の名詞形で、つまり『若さ・青春』だ。生まれてから死ぬまで欠けたるものもない贅沢な暮らしを約束された金持ちの貴族にとって、唯一一般庶民と共有しなければならないのは時間の流れ、すなわち年を取ることである。彼らが最も忌み嫌うのは年を取ることで、財産の全てをはたいてでも手に入れたいと願うのが『若さ』なのだろう。だからこそ『ベニスに死す』みたいな物語が作られる。あの映画の怨念すら感じる若さへの妄執は、生まれながらの金持ちや貴族特有のものなのかもしれない。本編に登場するヌードもミスユニバースの若くてピッツンパッツンのナイス・バディだったが、フェリーニが描く女性のヌードは、巨大すぎる胸であったりお尻であった。セックスの対象と言うよりも、むしろ化け物見たさの恐怖の対象であった。彼の奥さんジェルソミーナことジュリエッタ・マシーナは小柄な人だったことが彼の本質的な趣味を証明していると思う。ダイナマイト・ボディのアニタ・エクバーグと浮気したこともあったかに聞くが、『魂のジュリエッタ』で妻の元に帰ってきている。
 監督のパオロ・ソレンティーノは、間違いなくフェリーニの影響を受けていると思う。いや、映画監督で、しかもイタリア人で、フェリーニの影響下にない人は、まぁあるまい。そして、それは別にそれは悪いことではない。宣伝が悪い。宣伝があまりにもフェリーニ色を前面に出している。

 主演のマイケル・ケインは素晴らしかった。ハーヴェイ・カイテルも良かった。
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辰之介

Author:辰之介
映画ファン歴40年。
映画やドラマを観る日本人の審美眼を真剣に憂える。

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