殺されたミンジュ

☆☆ (広くにお薦めはしないが一見の価値あり)

 監督のキム・ギドクは、新作が来ると必ず観に行くボクが大好きな映画監督の一人である。韓国映画では唯一だ。
 『鬼才』という表現が彼ほどピッタリな映画監督はいない。画面からヒリヒリと伝わってくる痛いほどの暴力性が一貫したモチーフになっていて、不条理な物語が持ち味の彼だが、本作はとりわけ意味が分からなかった。
 映画を観た後に読んだパンフレットで知ったのだが、タイトルにある『ミンジュ』とは、韓国語で『民主(主義)』の意味になるらしい。冒頭で殺される女の子の名前でもある。これを踏まえた上で観れば、もう少し作品の理解に近づけたかもしれない。
 ところで、韓国で公開された時の原題はハングル文字で3文字。これを直訳すると『One On One(一対一)』となっている。本国では、『殺されたミンジュ』というストレートな表現では上映できなかったのだろうか?

 韓国と言えば、一応西側陣営の一員で、普通選挙や三権分立もある法治国家のように見える。が、それは錯覚に過ぎない。法律よりも国民の感情や世論のほうが優先し、史実や科学的な事実よりも自分たちに都合の良い虚構やファンタジーを信じている。竹島も、慰安婦も、徴用工も、対馬の仏像も、産経新聞ソウル支局長の起訴も、数え上げたら切りがない。
 しかし、切りがないのは日本への言いがかりだけではない。国内問題もうんざりするほど山積みされている。GDPの7割を財閥系トップ10社が占める極端な財閥支配社会や、内需を切り捨てた輸出依存による経済構造などで、庶民は不満や怒りで爆発寸前、いや爆発している。賃金労働者の離職率や、酒暴事件の発生率、障害者差別などなど。異様なまでの自殺率の高さにその歪みがよく現れている。特に際立っているのが老人の自殺率で、2011年の統計で70歳以上の高齢者の自殺率は10万人当たり約160.4人(日本は14.6人)である。性犯罪も多い。ありもしなかった慰安婦問題を世界に広める暇があったら、ライダイハンを何とかして欲しい。どこから手をつけていいやら分からないほど問題が山積みだ。セウォル号の沈没など些細過ぎて霞んでしまう。まぁ、国内のことだし、自分たちに都合の悪いことは、頬被りして無視すれば良いのかもしれない。事故の時に大統領が男といちゃついていたとしても致し方あるまい。
 前置きが長くなったが、キム・ギドクはこれらの国内問題を、隠喩や暗喩で作品中に表現しているようだ。しかし、プライドばかりの高い韓国人には、自分たちの負の部分をクローズ・アップされるキム・ギドクの存在は疎ましいらしく、韓国国内ではまったく評価されていないらしい。実際、製作費も集まらないらしくて、前作の『メビウス』以降、経費削減のため監督が撮影も兼ねるようになったらしい。
 非常に残念なことに、韓国内でのキム・ギドクの嫌われようは、ジャーナリストからも同様のようである。一昨年、ボクは韓国のTVジャーナリストと話をする機会があった。その時、キム・ギドクに対する彼らの評価や、世間での評判を知りたくて質問した。が、ボクの質問に対し、彼らは一様に顔を見合わせ、言葉を詰まらせた。しばらくして、言いにくそうに、
「ユーモアあふれる優しいあなたが観るべき作家ではないです」
 と否定されてしまった。
 ありもしないことを捏造までして自国を貶め、自国の悪評を世界に広げることに喜びを求める日本のジャーナリストとはまるで真逆の反応だった。日本のジャーナリストにも、彼らのような愛国心が欲しいものである。
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辰之介

Author:辰之介
映画ファン歴40年。
映画やドラマを観る日本人の審美眼を真剣に憂える。

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